ジョークとジョーク

ことばのリハビリですよ。

Anytime smokin' cigarette

タバコを覚えて1年近く経つ。何も無いときは1日に1~2本、酒を飲むときは気分が悪くならない程度に適当に吸っている。タバコなんてものは学生時代に悪い友人から教えてもらって吸い始めたり、成人した記念に試してみるものだったりするものなんだろうけれど、なんとなくそれらの通過儀礼を経験せずに去年の今頃から自発的に吸い始めた。吸い始めた理由は漠然といろいろあるんだけれども、最大の理由はその当時片思いしていた人がタバコを吸っていたから、というサイコーにかっこ悪い理由だ。人に聞かれたら「間食をやめようと思って……」だとか「ムシャクシャしてて自傷行為的な意味ではじめた」だとか他の理由を答えてるけど。だってやっぱり恥ずかしいし。


1年前に片思いしてた相手は少し年の離れた相手だった。お互い酒を飲むのが好きだし、多少音楽の趣味も合った。天邪鬼でちょっと面倒な性格だけどたまに笑うと素敵な笑顔をする人だった。ヘビースモーカーだったので今思い出してもずっとタバコを吸っている姿ばかりが浮かぶ。彼は休みが不定期だったし、僕も当時は大学で粘ってたので遊べたとしても月に1度くらい。そんな彼と少しでも共通の話題がほしいと思って自分もタバコに手を出してみた。こうして書いてみるとちょっとヒく。女子中学生かよ。まぁ当時は(当時も、か)進学のこと、バンドのこと、家庭のこと、すべてが上手くいってなくてなんでもいいから気晴らしがしたかった。タイミングが重なったのだ。そういうことにしてくれ。頼む。


初めてタバコを買った日は春らしい陽気に包まれた日だった。もやもやした気分を晴らそうと思って三宮に映画を観にいっていた。ミュージカル映画のアニーだったはずだ。希望と歌にあふれた良い映画だったけれどもやっぱり気分は晴れなくて、とりあえずぶらぶら歩いているうちに先の考えを実行しようと思い立ってドンキホーテに立ち寄った。一番安い灰皿とライターを手にとってレジでタバコを選ぶ。銘柄なんてろくに知らないのでとりあえず目に付いたハイライトというタバコにした。家に帰って一本吸ってみると、まず最初に「思ったより美味いな」と思った。よく風邪をひくし、歌ったりするとすぐに声が嗄れるので体質的に合わないんじゃないかな、とも思ってたけど別にそんなことはなくて抵抗無く吸えた。バンドをやってるからか周りにヘビースモーカーが多くて、常に副流煙に晒されて鍛えられていたからかもしれない。バンドマンであることを初めて感謝した。同時に「これは自制しないと延々と吸ってしまうな」とも思った。間食と違って特に分かりやすい満足感が得られるわけでもないから止め時がいまいちわからないのだ。というわけでそのときから何も無いときは1日2本と決めて吸い続けている。


買ってから気づいたのだけれども、あの人が吸っていたタバコもハイライトだった気がする。それを思い出したときは偶然にせよなんとなく嬉しくなった。夜中にベランダで彼が好きだったキリンジのエイリアンズを聴きながらタバコをふかしていた。当時23歳の男がこんな乙女チックなことをやってたのは本当に気持ち悪いと思うし、今すぐタイムリープしてぶん殴りに行きたい。

結局それから彼と会うことはなかった。自然消滅、というか僕がしつこく遊びに誘いすぎて向こうがうんざりして距離を置かれてしまったのだと思う。いろいろ切羽詰っていて周りが見えていなかったにせよ、自分のコミュニケーションのへたくそさを実感した。


こういう理由で僕には喫煙の習慣だけが残されてしまった。実際タバコは美味しいし、ボーっと時間をつぶしたり無心に考え事をするにはちょうどいい道具だ。今のところ吸えなくてイライラ……といったことも無いし依存症にはなっていない、と信じている。これからもほどほどに楽しんでいこう。


ただ、今でもたまにベランダでエイリアンズを聴きながらタバコをふかしてしまうのは未練がましくてよろしくないなと思うので、どうにかしたい次第である。