ジョークとジョーク

ことばのリハビリですよ。

甘い果実

思い出を呪いに変えてしまいやすい性格をなんとかしたいと思う。楽しい出来事、嬉しい出来事があるたびに現在や未来の憂鬱がより色濃く強調されてしまって精神的に参ってしまう。きちんと明日への活力へ変換させられればもっと生きやすくなるのに。


一度会ってからずっと心から離れない人がいる。その人と改札前で待ち合わせたときの落ち着かない気持ちだとか、一緒に歩いた夕暮れの坂道だとか、柔らかい声色で名前を呼ばれたときの嬉しさだとか、手を握った時の温度だとか、首元から漂う匂いだとかがどうにもずっと心にまとわりついている。最初は思い出すたびに嬉しいようなくすぐったいような気持ちになっていたのだけれども、互いの時間の都合でこまめに会うことが難しいので時間が経つたびに思い出に痛みを伴うようになってきた。


色恋沙汰に慣れていないから、誰かとほんの少しでも距離が近づいたあの一瞬への執着を恋心と勘違いしてるだけなのかもしれない。それでも自分にとってはもう一度会うには十分すぎる動機だったので、再び会う約束を取り付けた。会ってる最中はただひたすらに楽しく過ごして結局この気持ちがなんなのか区別はつかないままだったけど、別れ際の電車の中でどうにもこうにも泣きそうになってしまい、ようやくそこでこの気持ちが恋心だということに気がついた。そこから笑ってしまうほど強引すぎる理由で引き留めて気持ちを伝えることにした。この行為が果たして正解だったのかは今でもわからないけど、しみるような心の痛みは未だに消えていない。